2024年11月、埼玉栄高校のグラウンドで整備用の軽自動車が横転し、助手席に乗っていた17歳の男子生徒が死亡しました。
2026年9月1日、死亡した生徒の両親が学校法人や学校関係者、運転・同乗していた生徒らを相手に、約1億3662万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。
なぜ1億円を超える請求に発展したのか、遺族側の主張や学校側の管理、生徒側の行動について整理します。
埼玉栄高校事故で1億3662万円請求はなぜ?
遺族が約1億3662万円の損害賠償を求めた背景には、事故が生徒による一度きりの無断運転ではなく、学校側の長期間にわたる車両管理の不備によって起きたとする主張があります。
死亡した男子生徒の両親は2026年9月1日、埼玉栄高校を運営する学校法人佐藤栄学園や学校関係者、運転していた生徒らを相手取り、さいたま地裁に提訴しました。
請求額については、報道によって約1億3660万円、約1億3662万円、1億3663万円とわずかな表記の違いがありますが、1億3600万円台の損害賠償を求めている点は共通しています。
なお、この金額は裁判ですでに認められた賠償額ではなく、遺族側が訴訟で求めている金額です。
請求額の詳しい内訳は公表されていません。
遺族は学校だけを訴えているわけではない
今回の提訴について、「生徒が勝手に車に乗ったのになぜ学校を訴えるのか」と感じる人もいるようですが、遺族側が責任を求めている相手は学校だけではありません。
報道では、訴えの対象に次のような関係者が含まれているとされています。
- 埼玉栄高校を運営する学校法人佐藤栄学園
- 学校法人の理事長
- 埼玉栄高校の校長や教頭
- 男子サッカー部に関係する教諭
- 車を運転していた男子生徒
- 同乗していた男子生徒ら
- 関係する生徒の保護者
つまり遺族側は、「学校だけにすべての責任がある」としているわけではなく、事故につながった可能性がある複数の関係者に対して責任を求めている形です。
車を誰でも動かせる状態だったと主張
遺族側が学校の責任を問題視している理由の一つが、事故車両の管理方法です。
事故を起こした軽自動車は施錠されておらず、鍵も車内に置かれた状態だったとされています。
そのため、生徒が鍵を盗み出したり壊したりしなくても、車に乗り込めば動かせる状態になっていました。
遺族側は、このような車両管理が事故につながったと主張しています。
事故約1カ月前にも横転事故があったと主張
今回の提訴でさらに注目されているのが、死亡事故の約1カ月前にも同じ生徒による無断運転で横転事故が起きていたとする遺族側の主張です。
それにもかかわらず、学校側が十分な調査や再発防止策を取らなかったとして、遺族側は安全管理上の問題を指摘しています。
もし事前に無断運転や横転事故を把握し、鍵を車内に置かない、車両を施錠するといった対策が取られていれば、死亡事故を防げたのではないかというのが遺族側の考えです。
埼玉栄高校の車横転事故では何があった?
事故は2024年11月16日午後11時半ごろ、さいたま市西区にある埼玉栄高校の総合グラウンドで発生しました。
男子生徒4人が男子サッカー部のグラウンド整備に使用されていた軽自動車に乗り、グラウンド内を走行していました。
- 運転席:男子生徒
- 助手席:死亡した17歳の男子生徒
- 後部座席:男子生徒2人
車はグラウンド脇ののり面に乗り上げ、助手席側を下にして横転しました。
助手席に乗っていた17歳の男子生徒は、窓から身体を乗り出していたとみられ、車体と地面の間に挟まれました。
男子生徒は搬送先の病院で死亡が確認され、後部座席にいた生徒1人も軽傷を負いました。
4人は点呼後に寮を抜け出していた
事故に関係した4人はいずれも学校の寮で生活していました。
事故当日の午後9時に行われた点呼を受けた後、寮監に見つからないよう寮を抜け出したとされています。
その後、徒歩約15分離れたグラウンドへ向かい、午後11時半ごろに事故が発生しました。
深夜に寮を抜け出したうえ、許可なく学校の車に乗っていたことは、生徒側の責任を考えるうえで重要な点となっています。
学校側の管理責任が問われている理由
学校側については、事故車両の鍵だけでなく、生徒による無断運転を長期間把握できていなかった管理体制も問題となっています。
車は無施錠で鍵も車内にあった
事故車両は男子サッカー部のグラウンド整備に使用されていました。
学校側の説明では、グラウンド整備を円滑に行えるよう、車内に鍵を保管する運用が行われていました。
その結果、生徒が車に入り、自由に運転できる状態になっていたとされています。
事故直後には学校法人側も、鍵の管理に問題があったことを認めています。
約2年間で延べ73人が無断運転
その後の第三者委員会による調査では、さらに驚くべき実態が明らかになりました。
2022年11月ごろから死亡事故が起きるまでの約2年間に、延べ73人の生徒が整備用車両を無断で運転していたとされています。
つまり、死亡事故当日の4人だけが突然車に乗ったわけではなく、生徒による無断運転が以前から繰り返されていたことになります。
これだけの人数が長期間にわたり無断運転していたにもかかわらず、その実態を学校側が把握できていなかったことが管理上の大きな問題となっています。
車体の破損なども発生していた
無断運転が繰り返される中では、車の屋根やサイドミラーが壊れるなどの異常もあったとされています。
さらに事故車両については、エンジンがかからなくなるなどの状態も確認されていました。
こうした異変がありながら、生徒による無断使用に気付くことができなかった点についても、第三者委員会は管理体制上の問題を指摘しています。
サッカー部の教諭2人も書類送検
学校側の管理については、刑事事件としても捜査が行われています。
2026年3月には、男子サッカー部の監督とコーチを務めていた男性教諭2人が、業務上過失致死傷の疑いで書類送検されました。
生徒が車を無断で使用する可能性があるにもかかわらず、鍵を車内に置いたまま適切な管理を行わなかった疑いが持たれています。
こうした捜査の経緯も、遺族側が学校関係者の責任を求める背景になっています。
生徒側にも責任があると考えられる理由
学校側の管理に問題があった一方、生徒側の行動にも事故につながったと考えられる複数の事情があります。
無断で寮を抜け出していた
4人は事故当日の午後9時の点呼後、寮監に見つからないよう寮を抜け出しています。
正規の外出ではなく、深夜に寮を抜け出してグラウンドへ向かったことになります。
そのため、学校の管理が十分だったかという問題とは別に、生徒たち自身が学校のルールに反する行動を取っていたことも事実です。
無免許で学校の車を運転していた
事故当時、車を運転していた男子生徒は自動車を運転できる免許を持っていませんでした。
警察の捜査に対しては、過去にも何度か運転したことや、「スリルを味わうために運転した」という趣旨の説明をしています。
運転していた生徒は自動車運転処罰法違反の過失致死傷容疑で書類送検され、その後、さいたま家庭裁判所に送致されました。
死亡した生徒も助手席から身体を乗り出していた
死亡した男子生徒自身の行動についても注目されています。
男子生徒は寮を抜け出してグラウンドへ行き、無断で使用されていた車の助手席に乗っていました。
さらに事故当時には、助手席の窓から身体を乗り出していたとみられています。
横転した際に車体と地面の間に身体を挟まれたとみられており、この行動が被害の大きさにどのように影響したのかも、事故を考えるうえでポイントになります。
後部座席の生徒2人についても捜査
後部座席に乗っていた男子生徒2人についても、単に車に乗っていただけなのかという点が捜査されました。
警察は、運転していた生徒の行為に加勢したとして、2人を現場助勢容疑で書類送付しています。
今回の民事訴訟でも、学校側だけではなく、事故に関係した生徒側の行動がどのように評価されるのかが注目されます。
学校と生徒のどちらに責任がある?
今回の事故では、学校側の管理責任と生徒側の行動を分けて考える必要があります。
学校側については、
- 車を無施錠にしていた
- 鍵を車内に置いていた
- 約2年間にわたり無断運転が繰り返されていた
- 延べ73人が無断運転していた
- 車体の破損などの異常があった
- 死亡事故の約1カ月前にも無断運転による横転事故があったと遺族側が主張している
などが問題となっています。
一方、生徒側にも、
- 点呼後に寮を無断で抜け出した
- 学校の車を許可なく使用した
- 無免許で運転した
- スリルを目的に運転したと説明している
- 死亡した生徒も無断使用された車に同乗していた
- 助手席から身体を乗り出していたとみられる
という事情があります。
そのため、「鍵を管理していなかった学校がすべて悪い」「生徒が勝手に乗ったのだから学校には責任がない」と単純に分けられる事故ではありません。
今回の訴訟では、学校側が事故を予見して防止できたのか、生徒たちの行動が事故や被害にどの程度影響したのかなど、それぞれの責任が争点になっていくとみられます。
なぜ遺族は今になって提訴した?
事故から約1年10カ月後となる2026年9月に提訴した背景には、事故後の調査や捜査によって当初分からなかった事実が次々と明らかになったことがあります。
事故直後から鍵の管理は問題となっていましたが、その後の第三者委員会の調査で、約2年間に延べ73人もの生徒が無断運転していた実態が判明しました。
さらに、サッカー部の監督とコーチが業務上過失致死傷の疑いで書類送検されています。
遺族側はこれまでも、事故は偶発的に起きたものではなく、学校法人の管理体制に問題があったとの考えを示してきました。
こうした調査や捜査を経たうえで、学校関係者だけでなく、運転・同乗していた生徒らを含めて民事上の責任を求める訴訟に踏み切った形です。
まとめ
今回は、埼玉栄高校事故で約1億3662万円が請求された理由や遺族の主張、学校・生徒側の責任についてまとめました。
- 2024年11月16日深夜、埼玉栄高校のグラウンドで車が横転した
- 助手席に乗っていた17歳の男子生徒が死亡した
- 死亡生徒の両親は2026年9月1日にさいたま地裁へ提訴した
- 請求額は約1億3600万円台と報じられている
- 訴えの対象は学校だけでなく運転・同乗した生徒らにも及んでいる
- 事故車は無施錠で鍵が車内に置かれていた
- 約2年間で延べ73人の生徒が無断運転していた
- 死亡事故の約1カ月前にも無断運転による横転事故があったと遺族側は主張している
- 一方、生徒4人は点呼後に寮を抜け出し、無断で車に乗っていた
- 死亡した生徒も助手席から身体を乗り出していたとみられている
今回の提訴を見るうえで重要なのは、遺族側が学校だけに責任を求めているわけではない点です。
学校側には長期間にわたる車両管理の問題があった一方、生徒側にも寮を抜け出して無断で車を使用するなどの行動がありました。
学校と事故に関係した生徒らそれぞれの責任がどのように判断されるのか、今後の裁判の行方が注目されます。

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